details

泉鏡花の『外科室』は、1895年に「文芸倶楽部」で発表された短編小説で、身分違いの恋愛とその悲劇を描いた作品です。物語の語り手は画家であり、友人である高峰医師が執刀する手術に立ち会うことになります。手術の患者は貴船伯爵夫人であり、彼女は重篤な病にかかっていました。手術が行われる前、伯爵夫人は麻酔を拒否します。彼女は麻酔をかけられると、秘密にしていることを無意識に喋ってしまうのではないかと恐れていたのです。その秘密とは、彼女が高峰医師に対して抱いている深い愛情でした。伯爵夫人は、麻酔なしで手術を受けることを強く主張し、最終的に高峰医師もこれを了承します。手術が始まると、伯爵夫人は痛みに耐えながらも、高峰医師の手を握りしめ、「あなたは私のことを知らないでしょう」と告げます。高峰医師は驚きながらも、「忘れることはありません」と応じます。その瞬間、伯爵夫人は自らの胸をメスで突き、命を絶ちます。高峰医師はその場で真っ青になりながらも、彼女の最後の言葉を胸に刻みます。実は、9年前に高峰医師と伯爵夫人は一度だけ出会っていました。その時、彼女は美しい女性として高峰医師の心に深く刻まれていましたが、二人はそれ以来会うことはありませんでした。伯爵夫人の死から間もなく、高峰医師もこの世を去ります。彼らの愛は成就することなく、悲劇的な結末を迎えます。
物語は、愛と秘密、そして命の儚さを描き、読者に深い感動を与えます。泉鏡花の独特の文体と美しい描写が、この悲劇的な物語を一層引き立てています。